2008年02月

2008年02月18日

禁断のパンダ(拓未 司)

 『このミステリーがすごいびっくり』大賞第6回2008年大賞受賞作

 柴山幸太は神戸でフレンチスタイルのビストロを営む新進気鋭の料理人。彼は、妻の友人と木下貴史との結婚披露宴に出席し、貴史の祖父である中島という老人と知り合いになる。その中島は人間離れした味覚を持つ有名な料理評論家であった。披露宴での会話を通じて、幸太は中島に料理人としてのセンスを認められ、その結果、中島が幸太のビストロを訪問することになる。
 一方、幸太が中島と知り合った翌日、神戸ポートタワーで一人の男性の刺殺体が発見された。捜査に乗り出した兵庫県警捜査第一課の青山は、木下貴史の父・義明が営む会社に被害者が勤務していたことをつかむ。さらには義明も失踪していることを知り…。

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  禁断のパンダ
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 物語は絶品料理にまつわるドラマと、同時に起きた運輸会社の部長殺しの捜査とが平行して描かれていく。そのなかでも一際目立つのが料理の描写である。食材と調理法の豊富な知識もさることながら、味覚そのものをここまで描いている作品はないと思う。
 著者は伊達に大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、神戸のフランス料理店に就職していた訳ではないようだ。また、美食家のキャラも立っていたし、“グルメ”の部分や登場人物たちの関西弁のやりとりは最高に面白い。クラッカー にっこり
 だが、肝心の殺人事件を中心としたミステリーとしての構成がイマイチ。アウト 主人公が事件に巻き込まれるのか、或いは事件を解決していくのか、それとも警察が捜査するのか、中盤まではっきりとしない。それと冒頭から事件が起きるまでの流れが悪い気がする。グルメ場面が、話の中心となる殺人事件の展開から浮いたのが残念だった。悲しい

 
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2008年02月11日

許さざる者(笹本 稜平)

 フリーライター深沢章人の兄が自殺して六年後、彼のもとをひとりの弁護士が訪れる。その時、初めて章人は、兄が死の三日前に結婚していたことと、多額の保険金がかけられていたことを知る。。困った その死に不審を覚えた章人は、兄の死ぬ直前の足取りを辿り、「母の死の真相を調べる」という兄の遺志を継ぐため故郷へと向かう。そこで彼が掘り起こしてしまったものとは…。

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  許さざる者
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絶縁状態の父が受け取ったとされる保険金の有無を調べていくにつれ、六年前の兄の自殺と二十六年前に起きた実母の不可解な事故死に疑問を感じ、真実を求め捜査する主人公。この二つの死の謎を呑み込むブラックホールのような存在が義母であることに確信を持つ。悲しい 家族の秘密が暴かれるとき、仮借ない運命の歯車が回りだす。
 本作、『ポンツーン』連載『仮借なき蒼穹』を改題し、加筆・修正したものを単行本化したもの。読み進めていくにつれ明らかにされていく真実に一気読み出来る。そして、兄弟の絆を前面に押し出した感動させられる作品に仕上がっていた。笑顔

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2008年02月04日

災厄(永嶋 恵美)

 妊婦ばかりを狙った連続殺人事件の容疑者は、都内進学校に通う16歳の男子高校生。産婦人科外来で妊婦を殺した少年はその場で取り押さえられ、一連の犯行を自供した。困った
 妊娠5カ月目の美沙緒は、夫が少年の弁護を引き受けたと聞き、ショックを受ける。最後の犯行場所は美沙緒が転院予定の病院で、自分が狙われていたかもしれなかったのだ。
 さらに、夫が少年の弁護をすることがマスコミを通じて世間に知られるようになると、生活は一変。ネットには美沙緒の個人情報も流出し、自宅郵便受けは誹謗中傷の手紙やカミソリの刃、ゴミで溢れかえり、脅迫電話やスパムメール、悪意ある噂に追いつめられていく。そして、夫に対する疑惑も…。
 病んでいるのは誰なのか。現代社会の病理をあぶりだす。

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  災厄
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 凶悪な犯罪ばかりか、学校や職場のいじめなど、世の中の暗い出来事は絶えることがない。誰の身にいつ災難が起こるか分からないばかりか、自分や周囲の人たちが加害者に転じることすらありえるだろう。
 恐ろしいのは、異常な殺人犯ばかりではない。匿名のネット掲示板での心ない中傷や個人的な情報の露出など、いまや家の中に居ても安心していられない。しかも身近な人々の好意の裏にひどく陰険な思惑が潜んでいたりする。
 本書は、そんな善と悪がないまぜになった人間の複雑な姿を見事に浮き上がらせ、現代社会の病理をとらえたサスペンスになっている。また、殺人者の側からの描写があるなど、少年犯罪小説としての読み応えも十分である。

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