2009年08月

2009年08月30日

龍神の雨/道尾 秀介

 人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。

 c960a4fb.jpg


 「だまされまいと心して読んでいるのに、またしてもだまされた」
 今もっとも注目されている若手ミステリー作家、道尾秀介の作品を読み続けている人なら誰しも思っていることだろう。
 作者は一作ごとに傾向も味わいも違う作品を書き続けながら、読者を跳び上がらせる大胆極まりない仕掛けを常に用意している。そう、道尾秀介はもっとも油断のならない作家である。
 本書は肉親と死に別れた二組のきょうだいが登場する犯罪小説風のサスペンスである。
 19歳になる添木田蓮は実母の急死後、暴力をふるう継父を疎ましく思いはじめる。その感情は、中学3年生の妹の楓に対し、継父が性的な劣情を向けていると思い込んだ瞬間から、殺意へと変わっていく。
 一方、中学生の辰也と小学校の圭介の兄弟は、実母の死後に再婚した父親を病気で失い、継母と暮らしていた。達也は継母の存在を認めず非行に走り、圭介は2年前に実母が死んだ原因が自分にあるとひそかに悩み続けていた。
 台風による大雨の日、蓮は継父を事故死に見せかけて殺す仕掛けをして外出する。帰宅した蓮は、継父の死体を発見するが、妹の楓から自分が継父を殺したと告白される。二人は死体を遺棄しようとするが、殺人の証拠となるスカーフが、辰也の手に渡ってしまう。
 物事も人間のありようも、一面からでは判断できない。二組のきょうだいの視点人物である蓮と圭介。彼らが“見た”、息づまるような現実を追っていくうち、読者は作者が仕掛けた周到な罠にからめ捕らわれていく。

7b41cff1.gif



at 12:04|PermalinkComments(0) 道尾 秀介 

2009年08月24日

妃は船を沈める/有栖川 有栖

 所有者の願い事を3つだけ、かなえてくれる「猿の手」。“妃”と綽名される女と、彼女のまわりに集う男たち。危うく震える不穏な揺り篭に抱かれて、彼らの船はどこへ向かうのだろう。―何を願って眠るのだろう。
 臨床犯罪学者・火村英生が挑む、倫理と論理が奇妙にねじれた難事件。

 d441b59d.jpg


 恐怖小説の古典としてあまりに有名な『猿の手』。あの作品で語られているのは猿の右手で、じつは左手も実在していたとしたら。そして、その手が自分の手元にあったとしたら。想い人を我がものにしたい執着と、もてはやされながら虚飾に溺れていたい自意識と。かなう願いは、果たして誰のものなのか?
 わずか3年弱のあいだに、立て続けに二つの事件の当事者となった謎の女。犯罪社会学者・火村英生と作家・有栖川有栖が、縺れた事件の真相と、背後に浮かび上がる人間のどうしようもない性に迫る。

d4640e2b.gif

2009年1月31日 読破


at 13:28|PermalinkComments(0) 有栖川有栖 

2009年08月20日

悪党/薬丸 岳

 自らが犯した不祥事で職を追われた元警官の佐伯修一は、今は埼玉の探偵事務所に籍を置いている。決して繁盛しているとはいえない事務所に、ある老夫婦から人捜しの依頼が舞い込んだ。自分たちの息子を殺し、少年院を出て社会復帰しているはずの男を捜し出し、さらに、その男を赦すべきか、赦すべきでないのか、その判断材料を見つけて欲しいというのだ。この仕事に後ろ向きだった佐伯は、所長の命令で渋々調査を開始する。実は、佐伯自身も、かつて身内を殺された犯罪被害者遺族なのだった…。

 3c6563ce.jpg


 著者は、文芸誌「野性時代」で佐伯を主人公にした短編を7作発表していた。単行本化にあたり、全作品を大幅改稿し、一本の長編小説としてまとめ直したのが、この『悪党』という作品。
 犯罪者は何をもって罪を償ったといえるのか? 犯罪被害者遺族は何をもって罪を赦すべきなのか?犯罪者と犯罪被害者遺族の心の葛藤(かっとう)を克明に描いた、衝撃と感動の傑作社会派ミステリー。

5678d3ed.gif



at 08:05|PermalinkComments(0) 薬丸 岳 

2009年08月17日

智天使(ケルビム)の不思議/二階堂 黎人

 大学生にして、多くの刑事事件の解決に貢献した、「名探偵」水乃サトル。親しくなった刑事から聞かされたのは、サトルもよく知っている人気女性マンガ家に容疑がかかり、迷宮入りした殺人事件の詳細だった。相互に矛盾する手掛かりから、真相にたどりつくことはできるのか!?やがて、彼女の周辺で新たな殺人が起こり、事態は混迷をきわめて…。現在と過去の二つの事件。巧緻を極めた、驚くべき完全犯罪計画。圧倒的な緊迫感で描く、究極の本格推理小説。

 fffa2a50.jpg


 崩しようのないアリバイと、極端に作為的な殺人と死体遺棄。手掛かりは相互に矛盾しており、真相は闇のなかだ。刑事たちは、天馬ルミ子が主犯、彼女に影のように従う男・杉森修一が実行犯だと考えているのだが、その証拠は得られていない。
 事件に興味を持って調べ始めたサトルは、さらなる殺人事件に遭遇する。そこでもまた、考えられないような奸計が張り巡らされているのだった……。
終始本格ミステリーにこだわり続け、トリッキーで大胆な作品を連発する二階堂黎人の鮮やかなる傑作。

d8975709.gif


at 18:33|PermalinkComments(0) 二階堂 黎人 

2009年08月13日

彼女らは雪の迷宮に/芦辺 拓

 まったく共通点がなく年齢も異なる6人の女たちに、谷底の一軒宿〈雪華荘ホテル〉から届いた招待状。期待に胸をふくらませてホテルを訪れた彼女たちは戸惑った。宿泊者どころか従業員さえいないのだ。誰がなぜ彼女たちを集めたのか?不安が高まる中、7番目の客を名乗る不審な女が現れ、主婦の鴨下結衣子が忽然と姿を消した。残された6人は吹雪でホテルからは出られない。彼女の行方を案じているうちにまた姿を消すものが出て…。
 この奇妙なホテルには何か秘密が!?巻き込まれた助手・新島ともかを救うため、名探偵・森江春策が初めてクローズド・サークルの謎に挑む。

54abcbff.jpg


5022ddd1.gif

2009年1月26日 読破


at 10:33|PermalinkComments(0)