あれから/矢口 敦子湯原温泉

2009年12月19日

球体の蛇/道尾 秀介

 1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。
 乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになる。しかしある晩、思わぬ事態が私を待ち受けていた……。
 青春のきらめきと痛みとを静かにうたい上げる、道尾秀介の新境地。あの頃、幼なじみの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった……。狡い嘘、幼い偽善、決して取り返すことのできないあやまち。矛盾と葛藤を抱えて生きる人間の悔恨と痛みを描く、人生の真実の物語。

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 本書、これから葬儀に向かう主人公が葬祭場に行き着くまでの間に過去の出来事を振り返るメモワール作品である。現在30代前半と思われる主人公の一人称「私」が思い出を語る行く展開となっている。
 17歳の友彦は、居候する橋塚家の死んだ娘、サヨに似た女性・智子に出会った。狂おしく恋焦がれるあまり、彼女の情事の盗み聞きにおぼれてしまう……過去の事件やゆがんだ家族を巡り、友彦の魂がさまよう物語の中核は「ウソ」。ウソをのみ込み生きる人生の不可解さは、透明な球体に雪景色のジオラマを封じ込めたおもちゃ、スノードームに象徴される。
 向日葵(ひまわり)の咲かない夏』始め大胆な仕掛けを配した作品で評価されてきた著者であるが、今回はそれを避けたものとなっている。ミステリーとして読むとコケる作品である。

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at 08:27│Comments(0) 道尾 秀介 

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